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アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち (文春e-book)

感じたこと

  • 北広島に内定するシーン、それを市役所で放送するシーン、なくやろ
  • 新城監督からユニフォームのプレゼント、最高やん
  • 前沢さんの侠気。正論で勝負しないとダメなんだ。市の名前を変えられないか。
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内容

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引用メモ

例えば球界では、広島東洋カープが新球場のマツダスタジアム建設の際に広島市と十年間の「指定管理者契約」を結んでいた。市などが新球場の建設費およそ一五〇億円を負担し、カープ球団は指定管理者としてスタジアムをデザインし、占有する。その代わりに球場使用料、広告費など合わせて年間約六億円を市に支払う。官と民が互いの義務を明確化した公設民営のひとつのモデルケースだった。それと同じことが札幌ドームとファイターズの間でもできるのではないか。前沢には淡い期待があっ
オレンジ色のハイライト | 位置: 279 幹部たちの視線が分厚い資料に注がれる中、二人が立ち上がっ
オレンジ色のハイライト | 位置: 668 総合運動公園が整備されたあかつきには高校野球の予選を開催することはもちろん、年間いくつかのプロ野球二軍戦を誘致するのが理想だった。そして数ある球団の中でも、やはり北海道を本拠地とするファイターズの試合を開催したいというのが上野と川村の本音だった。ファイターズの二軍は千葉県の鎌ケ谷に本拠を置いているが、一軍が札幌をホームとしているため、イースタン・リーグと呼ばれる二軍公式戦のうち何試合かを北海道で開催していた。そのうちたとえ一試合でも北広島に新しくできる運動公園に誘致できれば市民の暮らしに彩りを与えることができるはずだっ
オレンジ色のハイライト | 位置: 735 衝撃的なひと言だった。彼は甲子園常連校の出身であり、実際に自らも聖地の土を踏んでいた。高校に入ったときから、彼ははっきりと具体的に甲子園の黒土に立つ自分の像を思い描いていたという。  そこで気づいた。自分たちは甲子園、甲子園と口にはしていたものの、誰もそのイメージを描けていなかったのではないか。心のどこかで、無理かもしれないと考えてはいなかったか。可能性の線で結んだ 朧 げな輪郭でなく、もっと鮮明に想像すべきではなかった
オレンジ色のハイライト | 位置: 749 ──東京ドームに再び球音が響いた。先ほどとは逆のチームの攻撃だった。強くも弱くもない打球が内野手の正面に飛んだ。その時点で見ている者は一つのアウトを数える。だが、バッターはやはり一塁ベースに到達するその瞬間まで顔を歪ませて駆けていく。ほとんど毎日のように試合があるプロ野球ではみられない光景だろう。高校野球にはあるかもしれないが、それはときに指導者の強制が背景となっていることもある。前沢は大人の本気が好きだった。自分には今しかない、この場所しかない、それを自覚した者たちが振り絞るもの。それを観るために東京ドームに足を運んでい
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,064 キンセラはとうもろこし畑に囲まれたスタジアムに彼を案内し、グラハムは現世では果たせなかった願いを叶えた。名選手たちとともに試合に出て、打席に立ち、投手にウインクした。そして打った。ほんの一瞬すれ違ったままになっていた夢をつかんだ。  だが試合の途中、思わぬことが起こった。キンセラの娘がグラウンド脇の簡易スタンドから転落し、昏睡状態に陥ったのだ。幻の選手たちはそれを見て当惑した。一歩でもグラウンドから外に踏み出してしまえば、彼らはもう二度とプレーヤーとして夢のフィールドに立てなくなるからだった。  すると、グラハムが一瞬のためらいの後、白線の外へと歩み出た。グラウンドから出た瞬間、小さな街の名医の姿に戻ったグラハムはキンセラの娘を助けた。夢のフィールドを去ることと引き換えの行動だった。 「これで、いいんだ」  束の間の夢と訣別した彼は、キンセラにウインクすると、とうもろこし畑の中に消えていった。吉村の胸にはその場面が強く焼き付いてい
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,082 吉村は映画のことを考えていた。〝ムーンライト〟・グラハムのことを考えていた。彼はなぜフィールドを訪れ、そして去ったのか。その答えは出なかった。だが、ひとつだけ分かっていた。彼は夢を諦めたのでもなく、現実から逃げたわけでもなかった。ただ自分にしかできないことをやったのだ。そう思うと、すっきりした気持ちになっ
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,608 夢やロマンだけではなく、現実的なリスクとリターンのバランスを示せということだった。グループの中には投資案件がいくつもあり、取締役はその中から取捨選択しなければならない。五〇〇億円規模のボールパーク事業を選ぶとなれば。リスクに目がいくのは当たり前だった。立場が変われば自分もノーと言っただろうと三谷は思った。川村の頑なさは会社に対するロイヤリティの証であり、仕事に対する真摯さの裏返しであり、そういう意味では自分たちのボールパークに対するそれと同じだった。夢と現実のバランス。それが突破口だっ
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,606 札幌は官の街である。明治新政府が原野を切り開いて整備した。各交差点の看板がそれを象徴していた。市街の交差点は東西南北と数字によって名付けられていた。「南一西一」の交差点から西へ進めば、次は「南一西二」となる。役所にとって必要なのは区画を整理するための符号であり、曖昧さが入り込む余地はなかった。島口はそこに札幌と他の大都市との違いがあると考えてい
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,962 署名集めも地区ごとの説明会もプロジェクト全体から見れば小さな歩みなのかもしれない。野球で言えば、二番バッターの送りバントや進塁打のような仕事なのかもしれない。だが、そうやってつなぎ役として誘致に関わり市民と向き合ううちに、柴自身がこのプロジェクトに可能性を見出すようになってい
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,216 『本日、北海道日本ハムファイターズから、ファイターズの新球場建設地が、きたひろしま総合運動公園予定地に内定した旨の連絡を受けました。市は今後、ボールパークの実現に向け、引き続きファイターズと協議を進めてまいります』  杉原はこの街の人々の顔を浮かべながら原稿を読んだ。それから交換室を出ると、廊下を突っ切り、怖る怖るフロアに通じる扉を開けた。眩しい夕陽とともに視界に飛び込んできたのは、かつて見たことのない光景だった。各部署の職員全員が立ち上がっていた。杉原に向かって拍手をしていた。その向こうには来庁していた市民の笑顔が見えた。  もし奇跡というものが存在するとすれば、おそらく自分は今、その中に立っている……。杉原は目の前の景色を心に焼きつけておくために、しばらくその場に立ち尽くし
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,239  激しく揺れ動いた一日を終えて、前沢にはあらためて気づいたことがあった。振り返ってみれば自分たちはただ真っ直ぐに歩いてきただけだった。イメージの中にあるスタジアムを、ボールパークタウンを、一ミリたりとも削ることなく現実のものにする。それが可能な場所を探してきただけだった。そして、その胸中を明かしたところで人々の疑問が解消されないことも分かってい
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,255 「北広島市は札幌圏ということでもございます。ぜひ、アジアナンバーワンのボールパーク、素晴らしい球場を実現させて欲しいと願っております」  その言葉は巨大な自治体という組織の中で、人間が生み出した見えない境界線の中で戦う男の叫びのように聞こえた。同じゴールをめざした自分たちへのエールのようにも感じられた。前沢はテレビに映る秋元をじっと見つめていた。そしてやはり、ファイターズは前に進むために札幌ドームを出るしかなかったのだと、思うことができ
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,378 そして気づいた。およそ二十年前、ファイターズが北海道に移転してきた当時、多くの人はこう考えていなかっただろうか。 〝一年のおよそ半分を雪に閉ざされる北国に、本当にプロ野球が根付くのか?〟  新生ファイターズのシンボルとなった新庄がマスクを被ってグラウンドに現れた時、こんな声が聞こえなかっただろうか。 〝プロ野球選手がパフォーマンスなんてして、どうする?〟  そして監督となった新庄の周囲には当初こんな声が渦巻いてはいなかっただろうか。 〝あの人に、プロ野球の監督が務まるのか?〟 〝なぜ、ファイターズは新庄を監督にしたんだ?〟  前沢は球団内で新庄が監督になった経緯を聞いたことがあった。  二〇二〇年、四十八歳の新庄が現役復帰をめざしてプロ野球のトライアウトを受けたその日、ファイターズのある球団幹部がトライアウトを終えたばかりの新庄に電話を掛けたのだという。 「大事なお話があります─
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,398 誰が新庄を監督にすると決断したのか、球団内でもほとんど明らかにされていなかったが、前沢はその球団幹部というのは吉村浩ではないかと考えていた。吉村しかいないように思えた。  たとえ誰にも賛同されなくとも真っすぐに歩く。成すべきことを成す。見渡せばすぐ近くに自分と同じような、いや、それ以上の闇と逆風の中を歩む者たちがいた。あらゆる組織にフィットしなかった自分が、なぜこの球団に居場所を見出すことができたのか、分かった気がし