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@May 2, 2018

メモ

上巻

  • 奥深い人間関係を創生する私たちの能力――愛し、気遣い、希望し、信頼し、共通の価値観に基づく自主的なコミュニティを築く力は、人類に特有の能力だ。自然界や機械と私たちを区別する、もっとも重要な唯一のものなんだ。より速いものや、より速くしようとすることが、すべていいとは限らない。私は孫たちのことも考えるように生まれついている。チーターではないんだから(122)
  • 「これほど多くの人々が歴史を創り、歴史を記録し、歴史を公表し、歴史を増幅する時代は、いまだかつてなかった」と、ダヴ・サイドマンが評している。前の時代には、「歴史を創るには軍隊が必要だったし、歴史を記録するには映画スタジオか新聞が必要だった。公表には出版社が必要だった。いまではだれでも波を起こせる。いまではだれでもキーボードを叩くだけ(229)
  • この化学反応を起こす行為には、ふつう、3つの基本的要素を混ぜ合わせる。1つめは、自分の価値観、優先事項、願望だ。2つめは、最大の力、つまり世界最大の歯車やベルト車は物事をどう動かしていると自分は考えるか。そして3つめに、大きな力に影響を受けるとき、人々や文化がどう反応するか、あるいは反応しないかについて、自分はなにを学んだか。(269)
  • 偶然にボジアと出会うまでは、自分の技法や、コラムを成功させる秘訣について、深く考えたことはなかったと、私は告白した。一時停止してボジアと話をしなかったら、急激な変化の時代に世界を読み解くための自分の枠組みを分解し、よく調べて、組み立て直すようなことは、やらなかった(324)
  • だが、テクノロジーが段階的な変化を経ているいっぽうで、2007年前後に生まれたプラットフォームは、明らかに史上最大の前進を成し遂げた。それが、暮らし、商業、統治のあらゆる側面に、接続、共同作業、創造のあらたな能力をふんだんにもたらした。デジタル化できる物事が急に増えて、デジタル化されたデータすべてを保存する能力が拡大した。そのデータを処理してインサイトに変えるための、高速のコンピュータや革新的ソフトウェアがいくらでもあった。そして、組織や人々(大規模な多国籍企業から、インドの零細農家に至るまで)が、携帯コンピュータ、つまりスマホで、世界のどこからでも、それらのインサイトにアクセスしたり、インサイトに貢献したりすることができる(468)
  • 2004年に私が、世界はフラットになったと宣言して走りまわっていたときには、フェイスブックはまだ存在していなかった。ツイッターはまだ鳥のさえずりを意味する言葉だったし、 雲 は空に浮かんでいただけだった。4Gは駐車スペース、〝 願書〟は大学に提出する書類だった。ビジネス特化型SNSのリンクトインはほとんど知られておらず、たいがいの人間は刑務所のことだと思っていた。ビッグデータはラッパーにぴったりの名前で、Skype(スカイプ)は、ふつうの人が見ればタイプミスだった。これらのテクノロジーはすべて、私が『フラット化する世界』を書いたあとで開花した――ほとんどが2007年前後(488)
  • 市場、母なる自然、ムーアの法則が同時に加速して、〝加速の時代〟を構成し、私たちがそこに置かれているというのが、本書の主張の眼目になっている。それが現在のマシーンを駆動する主要な歯車なのだ。これら3つの加速は、互いに影響し合っている。ムーアの法則の加速はグローバリゼーションを促進し、グローバリゼーションの加速は気候変動を促進する。そのいっぽうで、ムーアの法則の加速は気候変動などの難問を解決する可能性も高め、同時に、現代の生活のあらゆる面を変容させている(549)
  • その点は重要な事実を示していると、テラーは説明した。人間と社会はこれまでずっと、だいたいにおいて変化に着実に適応してきたが、テクノロジーの変化は急激に加速し、それらの変化をほとんどの人間が吸収できる平均的な速度を超えてしまった。もう大半の人間が、ついていけなくなった。 「それが文化的な不安の原因になっている」とテラーはいう。「それはまた、毎日のように登場する新テクノロジーのすべてから利益を最大限に引き出すことも妨げている。……内燃機関が発明されてから数十年のあいだに、つまり道路に大量生産の車があふれる前に、交通の法規や約束事は徐々に定まった。それらの法規や約束事は、いまも私たちにおおいに役立っているし、それからの100年間、高速道路などの発明に法律を適応させる時間はじゅうぶんにあった。しかし現在は、科学の進歩が、道路を使う私たちの方法に地殻変動のような大変化をもたらしている。議会や自治体は、血眼になって追いつこうとしている。ハイテク企業は、時代遅れで馬鹿げたルールに憤慨している。大衆は考えあぐねている。スマホの技術はウーバーを勃興させたが、ライドシェアリングをどう規制すればいいのかについて世間が判断を下す前に、自動運転車がそれらの規制を時代遅れにしてしまうかもしれない(638)
  • テラーによれば、イノベーションのサイクルがますます短くなり、適応の時間がますます減るなかで、私たちがいま経験しているのは要するに、「絶え間ない不安定と、たまの不安定の違いだ」。静止した安定の時代は過去のものだ、とテラーはつけくわえた。だからといって、あらたなかたちの安定が得られないわけではないが、「あらたなかたちの安定は、動的な安定にならざるをえない。自転車に乗っているときのように、じっと立っていることはできないが、動き出せばかなり楽になる安定のかたちがいろいろある。私たちにとって自然な状態とはいえない。しかし、人類はそういう状態のなかで存在することを、学ばなければならない」。 私たちはみんな、自転車に乗るコツをおぼえなければならない(699)
  • ソフトウェアは、突然現われるあらゆるかたちの 複雑度 と取り組んで取り除く、魔法のようなものだ。それが新しい基準を創り出してくれるので、浮上した次の問題に目を向けたときに、その根底にある複雑度そのものに熟達しないですむ。ただ新しい層からはじめて、自分の価値を加味すればいい。基準を高めるたびに、人は新しいものを発明し、その効果が重なり合って、現在、ソフトウェアはあらゆるところで複雑度を取り除いている(1303)
  • 「ウーバーを使うときには」ワンストラスは、結論を述べた。「どこへ行きたいかということだけを考えます。そこへどうやって行くかではなく。GitHubもおなじことです。どういうツールを使うかではなく、どの問題を解決したいのかを考えなければなりません」GitHubのシェルフに行って、必要なものを取り、次のだれかが使えるように、改良して戻す。そのプロセスで、「フリクションをすべて解消します。GitHubのような見方が、すべての産業に見られるようになっている。(1462)
  • 企業は政府とは異なり、膠着状態に陥ることはできない。議会のように腹立ち紛れに閉会して、テクノロジーのサイクルを一度見逃すこともできない。そういうことをやると、企業は滅ぶ(1977)
  • これまで私たちが指摘してきたように、この 50 年のあいだに、マイクロプロセッサ、センサー、記憶装置、ソフトウェア、ネットワーキング、そしていまはモバイル機器が、加速しながら着実に進歩してきた。さまざまな段階でそれらが合体して、プラットフォームと私たちが見なしているものを創出した。新しいプラットフォームができるたびに、演算能力、帯域幅、ソフトウェアの能力がすべて融合して、手法や、コストや、私たちのやる物事のパワーと速度を変えたり、想像もしていなかったような新しいことを開拓したり、ときにはそのすべてを実現してきた。そして、その飛躍の速度がどんどん加速し、飛躍が起きる間隔が、ますます短くなっている(2011)
  • 2007年に、スーパーノバの登場とともに起きたことは、新しいプラットフォームへのさらなる飛躍だったと、私は思う。ただ、その動きは、複雑度を和らげる方向に傾いていた。ハードウェアとソフトウェアのあらゆる進歩が融合して、スーパーノバとなり、データのデジタル化と保存の速度と規模が大幅に向上・拡大した。また、そのデータを分析して知識に変える速度、コンピュータかモバイル機器を持っている人間がどこにいても、その知識をスーパーノバから引き出せる速度も速まった。その結果、複雑度が不意に、より速くなり、制約がなくなり、使いやすくなって、存在が見えなくなった(2029)
  • 固体から液体に変わることを化学では相転移というが、それとおなじことだ。固体の特徴はなにか? 摩擦 が多いことだ。液体の特徴はなにか? 摩擦がないことだ。数多くのモノからフリクションと複雑度を同時に取り除くと、双方向に作用するワンタッチ・ソリューションが提供される。ありとあらゆる個人対個人、企業対消費者、企業対企業の双方向の作用が、固体から液体に変わる。低速から高速へ、複雑度が重荷でフリクションが多かったのが、複雑度が見えなくなり、フリクションレスになる。したがって、なんであろうと、移動し、計算し、分析し、伝えるのが、ずっと楽になる(2076)
  • その結果、シリコンバレーの現在の標語はこうだ。アナログなものはすべてデジタル化し、デジタル化されたものはすべて保存し、保存されているものはすべて、より強力なコンピュータ・システムのソフトウェアで分析して、学習結果はすべてただちに応用して、古いものをもっとよく機能させ、新しいものを可能にし、古い物事を根本的に新しいやり方でやれるようにする(2091)
  • コグニティブ・システムは、それとは異なり、「蓋然論的で、複雑で予測しにくい、非構造化情報に適応して読み説くように設計されている。テキストを〝読み〟、画像を〝見て〟、自然音声を〝聞く〟ことができる。さらに、情報を解釈し、整理し、結論の根拠も示して、どういう意味なのかを説明できる。断定的な答えは示さない。そもそも、答えを〝知っている〟のではない。そうではなく、さまざまな情報源からの情報やアイデアを比較考量して、論理的に考え、検討するための仮説を提供する」。次に、これらのシステムは、可能性があるインサイトや答えそれぞれに、信頼度を割りふる。自分が犯したミスから学ぶこともできる(2221)
  • 21 世紀には、すべての答えを知っていることが秀でた知力だとは見なされなくなるだろう――それよりも、適切な質問をすべて投じられる能力が、非凡な才能を示す尺度になるだろる(2300)
  • 彫刻がそこにあるのを見て、私はびっくりした。現在のツールを使ったデジタル化のプロセスは、どんなふうなのだろうと思った。そこで、金曜日の夜に、ワインのグラスを片手に、iPhoneを出し、模型のまわりを歩いて、 20 枚くらい写真をとった。かかった時間は 90 秒くらいだった。それを私たちの会社が制作した123Dキャッチという無料クラウド・アプリにアップロードした。そのアプリは、あらゆるものの写真を3Dデジタル・モデルに変換する。4分後に、驚異的なほど精密で、アニメ化できる、生き写しの3Dモデルが送られてきた―― 20 年前に私たちが制作したものよりも優れていた。その晩、私は悟った。かつては、ソフトウェアとハードウェアに 50 万ドル以上かけて、きわめて技術力の高い専門的な作業を何カ月も何年もつづけて達成した仕事が、いまはカクテルパーティで片手にワインのグラスを持ち、反対の手にスマホを持って、アプリ1つでやることができる。それも数分のあいだに。私はデジタル・モデルを金をかけずに再制作し――しかも前のモデルより優れたものができる(2349)
  • だから、ウージェックはこういういい方を好んでいる。「 20 世紀は、私たちが作るものをあなたが好きになるようにすることが重要だった。 21 世紀は、あなたが好きなものをどう作るかが重要になった」 私たちは 創造者 の楽園にいる。次の世代の子供たちのおもちゃは、どんなものになるだろう? 自分のおもちゃ、好きなおもちゃを作り上げる。自分の特定のDNAに必要な薬品を作ることができるようなシステムも、まもなく出現するだろう。あるいは、オートデスクの優れたリサーチサイエンティスト、アンドルー・ヘッセルが私にいったように、「SFと科学の差がいまはかなり狭まっている。だれかがアイデアを思いついて言葉にしたとたんに、きわめて短いあいだに実現されるから(2368)
  • じっさい、ウォルマートは、消費者がほんとうにミリ秒――1秒の1000分の1――単位の違いに気づくことを知った。さらに、購入ボタンや検索ボタンを押したときには、 10 ミリ秒以内に応答があるのが当然だと彼らが考えていることもわかった。調査によって、消費者がオンラインで買うときに2分の1秒の遅れが生じるたびに、1日数百万件の取引処理が2%もしくはそれ以上、減ることを知った。(2553)
  • 10 年前には、私たちはみんな混み合った村に住んでいるような気がするといっただろうが、現在では、「みんな混み合った劇場に住んでいるような気がする」とダヴ・サイドマンはいう。「世界はただ相互接続しているだけではなく、相互依存している。私たちはこれまでになく、ともに栄え、衰えている。だから、非常に少ないものが、非常に遠くの多くのものに、非常にたやすく深遠に影響をあたえられる。……私たちは、他人の熱望、希望、フラストレーション、苦境を、単刀直入かつ直感的に経験している」――ケイボン・ベイポーが、大海原の上を飛行機で旅していたとき、嵐のなかで船に乗っていた見知らぬ人間の経験を共有したように。(2750)
  • ストックが私たちに安全と富をもたらした。ヘーゲル、ブラウン、デービソンは、2009年1月27 日に《ハーバード・ビジネス・レビュー》に発表した共作の小論〝ストックを捨て、フローを受け入れよう〟で、それを詳しく説明している。 なにか貴重なこと、他人には入手できないようなことを知っていたら、事実上、それがお金を儲ける手段になった。その知識を保護し、防御して、その知識に基づく製品かサービスをできるだけ効率よく、幅広く世に出せばよかった。たとえば、コカ・コーラの独占的なレシピや、特許で守られた製薬会社の大ヒット薬のようなものがそうだった。このモデルは強力で、単純で、成功してきたために、企業幹部の意識に深く根付いてしまった。 だが、加速の時代の難問について、ヘーゲルはこう説明している。「知識のストックの価値が、加速度的に減少していることが問題だ。こういう世界では、経済的価値の源が、ストックからフローへと移り変わっている。将来は、より多様な知識のフローの幅広い領域に効果的に参加でき、知識のストックをあらためて加速度的に活気づけるような企業が、最大の経済的価値を創出することになるだろう。(2886)
  • 歴史的に重要な社会の変化を促進する主な要素は、新しいなじみのないスキルを持つ未知の人間との接触(3448)
  • 著名な世界的投資家のジェレミー・グランサムが、かつて述べたように、人間は「複利の結果に対処するのが、ものすごく下手だ」。――市場、母なる自然、ムーアの法則が、チェス盤の後半で同時に加速しつづけるときには甚大な影響があるのだが、それをなかなか認識できないということを、この表現も表わしている(4105)
  • そのとき突然、組織コンサルタントのウォーレン・ベニスの有名な言葉の意味がわかった。ベニスはこういったのだ。「未来の工場で働いているのは、1人の人間と1匹の犬だけだ。人間は犬に餌をやるためにいる。犬は人間が機械に触らないように見張るためにいる。(4342)
  • あるインタビューでベインホッカーは、私たちの眼前の難問を簡潔に要約している。〝物理的テクノロジー〟――石器、馬に 輓 かせる 犂、マイクロチップ――の進化と〝社会的テクノロジー〟――貨幣、法の支配、規制、ヘンリー・フォードの工場、国連――を区別するところから、論を起こしている。 社会的テクノロジーは、私たちが協力によって利益を得るために組織をまとめる手法であり、ゼロサム・ゲームではありません。物理的テクノロジーと社会的テクノロジーは共進化します。物理的テクノロジーのイノベーションは、あらたな社会的テクノロジーを可能にします。たとえば、化石燃料テクノロジーは大量生産を可能にしました。スマホはシェアリング・エコノミーを可能にしました。その逆も成り立ちます。社会的テクノロジーは、あらたな物理的テクノロジーを可能にします。スティーブ・ジョブズはグローバルなサプライチェーンなしには、スマホを作れなかったでしょう(4442)
  • 物理的テクノロジーは、科学の速度で進化します――高速で、幾何級数的に加速します。いっぽう、社会的テクノロジーは、人間が変われる範囲内の速度で進化するので、ずっと遅いのです。物理的テクノロジーの変化は、驚異的な新しいもの、新しいガジェット、より優れた薬品を創り出します。社会的テクノロジーの変化は、しばしば巨大な社会のストレスや騒乱を生み出します(4453)
  • バーコード・スキャナーは、レジ係の精算時間を 18 ~ 19%短縮したが、1980年代にスキャナーが普及してから、レジ係の数は増えている。 ・1990年代以降、法手続きのための電子書類を探すソフトウェアは、 10 億ドル規模のビジネスになり、弁護士補助職がやるような仕事をこなしているが、弁護士補助職の数は健全に伸びている(4628)
  • 一生ずっと社員でいるためには、一生学びつづけなければならないことをもっともよく理解している人物の実例を、私は調査中に見つけた。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の社内シンクタンク、ヘンダーソン・インスティテュートを指揮しているマーティン・リーブズだ。マーティンはある日、私に名刺を渡したが、名前の下には肩書ではなく、そのときに彼が考えていたアイデアや研究が記されていた。 「名刺は毎週変えています」マーティンは説明した。だから、2017年3月 13 日に会ってランチを食べたときに、彼はまず謝った。「すみません。今週の名刺がなくて」(4854)
  • こういった問題はすべて解決できると判断して、アレクシスはそのために、2012年に LearnUp.com を共同創業した。職探しをしている人間がそのウェブサイトを見ると、該当する仕事に必要な条件やスキルを、求職する前に学べるミニ講座のオンライン・プラットフォームがある。面接に備える方法や、さまざまな職務に必要な具体的スキルの学習も提供している。AT&Tで顧客との人間関係を築く手順、オールド・ネイビーで服を売る手順、フレッシュ・マーケットで顧客の問題を解決する手順――ぴったりの製品を見つける手助けや、店の評判をよくする方法といったことを教えている。たとえば、ステープルズのような小売店に就職した場合には、コピー機も含めたオフィスの基本的な備品の使い方をおぼえなければならない。わずか1~2時間の教育課程だが、会社のことを知り、役割に必要なスキルを身につけ、適格な人間として求職するには、それでじゅうぶんだ。会社の側も、基本を学ぶ忍耐力があるかどうかを、それで見極められる。この課程を終えた人には志望する就職先との面接もラーンナップが手配する(5001)
  • アレクシス・リングウォルドは、次のような結論を述べた。「みんな、だれかに〝あなたを信頼します〟といってもらう必要があるんです。……スキルの格差だけではなく、自信にも格差があります」 それに、その片方が欠けると、もういっぽうを補うことはできない(5049)
  • カーン‐カレッジボード革命には、3つの基本的要素がある。(1)本人の負う責任が大きくなるから、本人がその事実に当事者意識を持ち、あらゆる場所の知的補佐と知的支援を探し求めることが望ましい。(2)本人が大きな責任を負うからこそ、政府や社会組織はただのツールではなく、よりよいツールを提供することに本腰を入れなければならない。それは、本人のために特別にあつらえられたAIによって情報をあたえられ、親身な大人やコーチが、可能なときにいつでも手助けするツールだ。(3)テクノロジーが役に立つのはそこまでだ。集中力も重要になる。コールマンは、現在は「邪魔者テクノロジーが、集中のテクノロジーを追い抜いている」と表現している。生徒はこれまで以上に集中力を持続する修練を積まなければならないし、演習に没頭する必要がある――ヘッドホンなどかけないで。スポーツ選手も科学者もミュージシャンも、集中した練習なしでは上達しない。そのためにダウンロードできるプログラムはない。自分のなかから引き出さなければならない(5109)
  • お酒を飲みながら絵を描く教室を成人向けに提供している〈ペイント・ナイト〉だ。《ブルームバーグ・ビジネスウィーク》2015年7月1日号の記事によれば、〈ペイント・ナイト〉は、「趣味を持ちたがっている弁護士、教師、テクノロジー関係者を中心とする客に、退社後のパーティを用意している」。週に5夜、そこで教える美術教師は、人々の心をつなぐことで年間5万ドルを稼いでいる(5339)
  • 21 世紀のテクノロジー革命は、科学革命とおなじように必然の結果だと、サイドマンは唱えている。「それは私たちに、もっとも深遠な疑問――私たちが以前は一度も思い浮かべたことのない疑問――に答えるよう求めている。〝知的な機械が存在する時代に人間であることは、なにを意味するのか?〟」機械が思考で人間と競い合うような場合、人間をまたとない存在にしてくれものはなにか? また、私たちが社会と経済の価値を創出しつづけるのを手助けするものはなにか? 答えは、機械にはぜったいに持てないもの、つまり「心だ」とサイドマンはいう。(5347)
  • マゴーワンが、〝仕事が職と分離された〟というのは、そういう意味だ。仕事の生産はもう職を収めるコンテナを必要としない。どこでもやることができる――「また、職と仕事は、一企業から分離されています。だれでも、どこでもやることができる(5385)
  • 未来学者のマリーナ・ゴービスはいう。その世界では、大きな 格差 は「やる気の格差になるでしょう」。セルフ・モチベーション、気概、忍耐力のある人間は、無料もしくは低コストのオンライン・ツールで、一生ずっと創造し、協力し、学びつづける。宿題はやったのかと念を押す親がいなくなっても。(5467)

下巻

  • 2011年5月、私はムバラク政権崩壊後の混乱を取材するために、エジプトにしばらくいた。妻のもとを2週間離れていてから、帰国の途に就いた。カイロ空港で時間をつぶさなければならなかったので、〝エジプトの秘宝〟という店を見て、土産物を探した。ツタンカーメン王の文鎮やピラミッドの灰皿には興味がなかったが、ぬいぐるみのラクダには心を惹かれた。こぶをぎゅっと握ると、ラクダが鳴く。どこで製造されたのかをたしかめると、〝中国製〟と記されていた。ピラミッドの灰皿もそうだった。つまり、人口の半分が1日2ドルで生活し、人口の 12%が失業していて、若者の失業率はそれよりもっと高いエジプトが、地球の裏側の国と競争しなければならない。エジプトの象徴ともいえるピラミッドの灰皿や鳴くラクダのぬいぐるみを中国で製造し、はるばる輸送してもなお、エジプト人が製造するよりも効率的で利益が出るのだ。そのいっぽうで、国内の 騒擾 が、観光客がラクダに乗りに来るのを妨げていた。(233)
  • マダガスカルがこの潮流を逆転させるのは難しいと、コンサベーション・インターナショナルの著名な霊長類学者のラス・ミッターマイヤーはいう。環境保護を支援するために、ミッターマイヤーは1984年からマダガスカルで活動してきた。「浸食が進むと、足もとの耕地がどんどん減っていきます」そして、不安にかられた人々は、よけいに多く子供をつくろうとする。(316)
  • ダヴ・サイドマンは、アイザイア・バーリンの〝積極的自由〟と〝消極的自由〟という概念を引き合いに出し、いまは世界中の人々が、「独裁者からの自由、マイクロマネジメントをするボスからの自由、CMを見せようとするネットワークの強制からの自由、近所の店からの自由、地元の銀行からの自由、ホテルチェーンからの自由」など、前例のないレベルの自由を創出していると唱えている(595)
  • ソーシャル・ネットワーク、安価な携帯電話、メッセージング・アプリは、共同行動を容易にするとともに、それを妨げた。人々が水平に結びつくことが容易になり、効果的になったが、底辺の人間が頂点の人間を――相手が敵であっても、味方であっても――ひきずりおろすのも、安易になり、効果的になった。このテクノロジー変化の時代にもっとも大きな権能を得た組織はネットワークだと、軍事戦略家は唱えるはずだ。昔ながらのヒエラルキーは、フラット化した世界では最適化できないが、ネットワークは最適化できる。ネットワークは指揮統制システムを脅かす――だれが頂点に立っていてもおなじだ。いっぽうで、だれが底辺にいたとしても、その反論する声を強力にする(608)
  • ゴニムは、現在、ソーシャル・メディアは政治の競技場で5つの大きな難題に直面しているという。 まず、私たちは噂にどう対処すればいいのかがわかりません。偏見を強めるような噂が、数百万人のあいだにひろがり、信じられています。2番目に、私たちはみずから反響を増幅させています。意見が一致する人々とだけコミュニケーションをとり、ソーシャル・メディアのおかげで、それ以外の人間すべての声を消し、フォローせず、ブロックすることができます。3番目に、オンラインの議論は、すぐに怒れる暴徒に劣化してしまいます。みんなそれに気づいているはずです。画面の向こうにいる人々がアバターではなく実在する人間だということを、忘れてしまったかのようです。4番目に、自分たちの意見を変えることが、きわめて難しくなっています。ソーシャル・メディアは速く簡潔なので、複雑な世界の問題について、急いで結論を下し、140字で鋭い意見を書かなければなりません。それをやると、その意見はインターネットで永遠に生きつづけます。あらたな証拠が現われても、意見を変えたいとは思いません。5番目に、これがもっとも重要だというのが私の意見ですが、現在のソーシャル・メディアの使い勝手は、関与より拡散、討論よりも投稿、深遠な会話よりも浅薄なコメントのほうがやりやすくできています。相手と対話するのではなく、相手の話を聞かずにしゃべることに同意しているような感じがあります(700)
  • 世代を追うごとに、テクノロジーの適用によって、ますます少数の人々が、ますます多数の人々の生活に影響力を持てるようになっています。その影響は意図的なこともあれば意図的ではない場合もあります。有益なこともあればそうでない場合もあります。新テクノロジーの容赦ない開発は、世代を追うごとに、社会・経済・政治的影響への関与を強めている(758)
  • 母なる自然は生涯学習者だ。BCGのビジネス・コンサルタント、マーティン・リーブズが私に説明してくれたように、母なる自然は、環境変化を探知するシステムとしてフィードバック・ループを使い、最大のレジリエンスと推進力でその変化に対応している植物や動物を見極めて、次世代の植物や動物にとってもっとも望ましい特質(すなわち遺伝子)を普及させている(1356)
  • 母なる自然は頑迷 固陋 の対極にある――いつでも考え方が柔軟で、異説を受け入れ、ハイブリッドで、起業家的な資質を備え、実験をいとわない。「自然は休みません。つねに探究し、発明し、試し、失敗もします」ジョージ・メイソン大学教授で環境科学が専門のトム・ラブジョイはいう。「それぞれの生態系や生物が、一連の問題の解決策になっています」(1395)
  • 安定がダイナミズムの果てしない行動によってもたらされることを、彼女は知っている。安定には停滞のような要素はないと、私たちにきっぱりというはずだ。安定して、均衡がとれているように見える自然システムは、けっして停滞してはいない(1447)
  • 母なる自然は、破綻もいいことだと考えている。生態系全体がうまくいくためには、個々の植物や動物の破綻が許されなければならない。彼女は自分のあやまち、弱さには容赦がない。種を作り、DNAを未来の世代に伝えるために適応できなかったものも容赦しない。そういったものを死なせれば、強いもののための資源とエネルギーが掘り起こされる。破綻に対して市場がやることを、母なる自然は山火事に対してやる。「成功の余地を生み出すために、自然は失敗した部分を切り捨てる」イギリスの銀行家で人類学者のエドワード・クロッドは、1897年の著書『 Pioneers of Evolution from Thales to Huxley(ターレスからハックスレーに至る進化論の開拓者たち)』で、そう述べている。「適応できないものは絶滅し、適応できるものだけが生き延びる」その灰から新しい生命が生まれる。(1460)
  • 母なる自然は、忍耐は美徳だと信じている。ことを急ぐと力強いものは生まれないと知っている。遅れてもいっこうに気にしない。母なる自然のレジリエンスが強いのは、生態系をゆっくりと辛抱強く創り上げたからだ。四季の流れを速めて季節を2つだけにしてはならないと、母なる自然は知っている。ゾウの赤ちゃんがおなかにいる月日を短くしたり、アリが卵からかえる期間を短くしたりできないのとおなじだ。バオバブの木の生長を速めたら、3000年も生き延びることはできなくなる。(1476)
  • この問題の権威であるオックスフォード大学のロナルド・ハイフェッツの定義を私が気に入っている理由はそこにある。ハイフェッツは、リーダーの役割について、「人々が現実を直視するように仕向け、変化を起こすよう彼らを動員することだ」と述べている。(1549)
  • テロリストの概念を〝精神的苦痛のコレクター〟だと表現しています。「テロリストは永続的な精神的苦痛を収集するコレクター」で、「数十年間の出来事や、何世紀も前の出来事を持ち出す」とナヴァロは指摘しています。「彼らのそういった出来事のコレクションは、現在でもじっさいに起きたときとおなじような意味があり、おなじような精神的苦痛をともなっている。彼らの精神的苦痛には時効がない。大量の精神的苦痛のコレクションは、彼らの恐怖と偏執症に駆り立てられたもので、妥協のないイデオロギーと一体化している。精神的苦痛の収集は、イデオロギーの支援と擁護という目的を果たす。過去の出来事を色褪せないようにしつつ、その意味を拡大して現代に置き換えられるからだ。恐怖と不安が、それによって狂信的に合理化される」(1644)
  • テクノロジーの進歩と人間の感覚のバランスをどうやって維持するのか? MITに入学しても、原子物理学しか学ばなかったら、そういったことは理解できないだろう。これは究極のアイロニーだ。テクノロジーを得れば得るほど、より幅広い枠組みを備えた人々が必要になる。システムを機能させるのに、テクノロジー専門家を雇うことはできるが、目的のためには違うタイプの指導者を必要とする(2296)
  • 多くの場合、個性は個人の功績ではない。何人もが集団として心血を注いでできあがったもの(2496)

引用メモ