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カエアンの聖衣

感じたこと

  • 人の本質を内面に見るか外面に見るか、のような話かと思いきや、知性の能動性、受動性の話にまで発展していくとは...

内容

  • 着用者の肉体をこんなふうに操れるとは、驚くべき進歩だ。このスーツには心があるんだろうか? 独自の生命を持ち、寄生生物のように──いやむしろ、共生生物のように──ペデルの体に棲んでいるのか? いまだにそうは思えなかった。スーツに知性があるとか、独自の力があるとか、そんなことはとても信じられない。とてつもなくすばらしい出来だとはいえ、このスーツはあくまでもひとつの芸術作品であり、着用者の眠れる才能を目覚めさせる効用があるだけだ。このスーツは、言わば心理学的な鋳型なのだ。ペデルはそう結論を出した。着用者の能力がその鋳型に流し込まれ、かたちを得て、それに順応する。時がたつにつれ、その流れがいっそう自由になり、やがては、いましがた目にしたような驚くべき肉体的能力が発揮されるまでになる。 それがペデルの解釈だった。ときに、スーツに支配されていると思えることもあるが、それは自分で意識していない才能が目覚めたからだ。精神科医がよく知るとおり、潜在意識は当人にとっても未知の領域なのである。
  • ザイオード人の精神性に鑑みると、こういう 辺鄙 でうらぶれた惑星こそ、理想的な刑務所になる。彼らは犯罪者を更生や社会復帰の対象とは考えない。違法行為の責任は百パーセント当人個人にあると見なされる。犯罪者は当然の報いを受ける。したがって、死刑以外の論理的な罰は社会からとりのぞくことであり、流刑地は遠ければ遠いほどよかった。
  • 「どんな文明にも、代表的な芸術様式があります。われわれの場合は、衣服です。しかし、一部の外国人の主張とは違って、宗教とはまったく関係がない。ただの実用心理学ですよ。われわれは、衣裳科学が人生に肯定的で前向きな姿勢をもたらす力があることを発見した。われわれから見れば、強迫観念にかられているのは あなたたち のほうです──人類の過去にとり憑かれて、自然がたまたま押しつけたたったひとつの形態から逃れられずにいる。
  • 「生まれ落ちた瞬間の人間は、いったいなんでしょう? 何者でもありません。心はニュートラルで、スイッチが入っていない。環境と相互作用するようになって、ようやく人生がはじまる。相互作用にはインターフェイスが必要です。それにふさわしい心理学的な道具で装わなければならない。そのため、みすぼらしい身なりの人々は、その多くが病的な内省に沈み、憂鬱な画一性に堕してゆく。それに対して、われらが服飾家の技術は、外部の現実と健康的な接触を保つことを助けてくれる

引用メモ