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カラスの教科書

感じたこと

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内容

  • これに比べると、外温性であるヘビは実に少食だ。アメリカのある研究者に「あなたの研究しているシンリンガラガラヘビ(体長1・5メートルほどになる)はどれくらい食べるのですか」と聞いた所、しばらく首をひねってから「状況によって全く違うが、1年にリスを2匹。おやつにネズミが2、3匹あれば足りるかなあ」との答えであった。寒い地域なので年の半分は冬眠しているとはいえ、数えるほどしか食事しない計算になる。毎日毎日、肉だ野菜だ魚だと食べ続ける人間より遥かに罪がない。食べたら食べたで、今度は消化するのが一仕事らしい。まず日光浴で体温を上げないと消化もままならないから
  • 他の多くの鳥から類推すれば、雛鳥の真っ赤な口が鍵刺激となって「この口に餌を食わせなきゃ落ちつかない」という気にさせる
  • 公園などでカラスの集団がいて、「ヒッチコックの映画みたいに襲って来そうで怖い」という声はよく聞くが、群れている連中は縄張りを持たない非繁殖群である。その日暮らしでブラブラして、うまいものを探して飛び回っているだけなので、命をかけて守るべき我が子もなく、人間に向かって来ることもない。(そのお弁当食べていい? と寄って来ることはあるかもしれない)。非繁殖群と繁殖個体は生活が全然違うので注意が必要だ。学生時代と、社会人になって結婚した後くらいの違いと思えば
  • ねぐらはだいたい、夜間人通りの絶えるような森だ(時に市街地の、それも電線で寝ていることもあるが、今のところ例外的)。神社や大きな公園が多い。東京では明治神宮、自然教育園、上野公園などが有名だ。京都では東山沿いにいくつかあり、洛西のあたりにもある。奈良市では春日大社周辺だ。小さいもので数百羽、大きければ数千羽に達する。かつて明治神宮や平林寺(埼玉県)のねぐらは4000羽クラスだったし、徳島県では8000羽と目されるねぐらが見つかったこともある。長野県での山岸哲らの研究によると 30 キロに及ぶ距離を、整然と列を成してねぐらに向かう集団に次々と小群が合流しながら集まってきていた
  • ハシブトガラスは他個体の顔と声を覚えていることが実験的に示されているが、学習曲線から考えてかなりの数の個体を記憶しておける筈だ。一方、伊澤や森下らの研究から、ハシブトガラスは離合集散型の社会を持っていると推測される(つまり、今日はこっちの集団、明日はあっちの集団と渡り歩くわけだ)。してみると、ハシブトガラスは地域の個体とはだいたい顔見知りで声も覚えており、どこへ行っても「よお、元気ぃ?」「げっ、あいついるじゃん」などとやっているのではないかと想像する。そのための社交場が、非繁殖集団であり、ねぐらということも、あるのかもしれない
  • 学術的な話をしておくと、カラスの離婚率は低いと考えられている。これは珍しいというべきで、鳥類は婚姻関係が長続きしないものが多いのだ。たとえばツバメは毎年のようにペアが変わる。そもそもいつ死ぬかわからないので、来年も同じ相手が生きて同じ繁殖場所に辿り着くとは限らない。そこまで極端でなくても、相手がイマイチであると判断した場合(繁殖成績が悪いとか、巣が外敵に襲われるとか)、ペアを組み換えてしまうという鳥は珍しく
  • 中村の研究によると、雄と雌の反応に温度差があるので雛が混乱せず、独立がうまく行くのではないか、との事である。どうやらその現場らしい光景を何度か見た事があるのだが、雄がもう大きくなった雛を追い回すと、雛は慌てて雌の後ろに隠れるのだった。雌は積極的に喧嘩には参加しないのだが、右を見ると雄がえらい勢いで怒っており、左を見れば子供が隣に来ており、どうしていいかわからずに左右を交互に見ていて、非常に困っている様子
  • カラスは何でも食べる。極端な雑食性だ。さすがに葉っぱは食べないようだが(鳥類は一般に、消化に時間がかかる上に栄養価の低い葉はあまり利用しない)、種子類、果実類、昆虫、魚、トカゲにヘビにカエル、鳥、ケモノ、どれも食べる。死骸を漁るのも得意
  • ところで、カラスが一番好きな餌はなんだろうか? まあいろいろあるだろうが、かなり上位に来ると思われるのがマヨネーズだ。ゴミ捨て場でマヨネーズのチューブを見つけると大喜びでくわえて飛んで行き、大変な苦労をしてあの分厚いビニールを食い破って穴をこじ開ける。そして、そこからくちばしを突っ込んで、チマチマといつまでも舐めているのである。大学で見かけたハシブトガラスはエアコンの室外機の下にマヨネーズを隠してストックしていた。どんだけマヨラーなんだ
  • 餌のありそうなスポットを探知し偵察に来る能力には長けている。ある実験でカラスを呼び寄せる必要があった時、一番効果があったのは、私が芝生の上で何か食べてみせる、という方法だった。結局、これは正式な実験手順としたのだが、パンを忘れて自販機の缶コーヒーで代用した事があった。するとカラスはこれを完全に無視した。一度ならば偶然かもしれないが、三度となると「食べるのと飲むのを見分けているらしい」と思えてくる。実験に必要な装備を三度も忘れる私より

引用メモ