🖋

心理学的経営 個をあるがままに生かす

感じたこと

  • 圧倒的な個の尊重と、カオス・無秩序に依るゆらぎ・ずらし、活性化。

内容

  • 私の考える心理学的経営とは、いわば経営リアリズムであって、まず、人間を人間としてあるがままにとらえるという現実認識が出発点なのである。では一体、人間をあるがままに受け入れるとはどういうことだろうか、そして「心理的事実」を素直に理解するという心理学的認識をどうとらえるべきだろう
  • 組織のなかに個が埋没したり、インパーソナルな存在と化してしまうという組織の病弊を打破しようとするとき、この小集団のもつ機能が極めて本質的な役割を果す
  • 組織に参加し、仕事に従事するなかで、個性を発揮し尊重するとはどういう意味なのか。それには何よりもまず、組織と個人の関係において、個人の側の意志の関与がある程度なくては話にならない。つまり、仕事がただ単に組織の指示によって与えられたものではなく、自分の仕事、自分の職場という自我関与の意識がなければならない。自ら目標を定め、あるいは目標設定に参加し、自らの発想で仕事をすすめ、その過程での自己決定の範囲も保証されている自律的組織であればこそ、自己責任の意識も育まれよう。さらに、対面小集団のなかで相互に介入し、ときには相互批判を交わすことで、われわれ意識(We-feeling) という相互の絆が形成されることも重要
  • 生命は秩序形成によって発生する一方、人間の存在は自然の条件に反抗し、自然を破壊していくことによって周囲からエネルギーを摂ることができる。生命という存在は「無秩序から秩序へ」という方向に自然に逆らうことで維持されていく。呼吸をし、食物を摂取するという物質代謝は、無秩序から秩序を形成する営みであり、その過程で生ずる熱や分解物を外に捨てなければならない。捨てられる排泄物は、エントロピーであり、無秩序である。秩序と無秩序の問題を考えるとき、このエントロピーという概念が極めて重要な鍵を握っているが、この無秩序から秩序へ、そして無秩序へと循環する生命の営みそのものが活性化の過程としてとらえられよう
  • 活性化の原点は、混沌とした無秩序でかつ不安定な状態のなかにあり、そこから秩序化へ向かって外部環境に働きかける過程に、動的な活性化された状況が見出されるのである。それはエントロピーの増大を伴い、再びカオスへと突き進む循環が予定されている自己組織化の過程
  • 活性化された組織はいわば雑然とした無秩序な世界である。整然と形式の整った固定化した硬い管理組織は、活性化とは縁がない。決められたルール、型にはまった役割、一見整合性のある制度や規則、固定化した上下関係、人間はこうした秩序化への願望から組織を指向した。そしてその一つの到達点が、マックス・ウェーバー(M. Weber) の官僚制組織
  • 無秩序やカオスを中心に活性化の現象学を前節で述べたが、組織活性化のパラダイムは、不均衡の理論にその基本的概念をおいている。すなわち、カオスの創造、ゆらぎの創出が活性化への出発点
  • 活性化している状態は、静止状態の対極にある。有機体の構成要素としての分子が激しく動いている状態が活性化の基本モデルである。すなわち、安定した状態、静止している状況に不均衡と混乱をもたらすこと、この不均衡創出の概念が、活性化の基本的考え
  • 不均衡の創出によって、既存の価値、過去の成功、これまでの秩序への否定的な視点が組織内に導きこまれる。このことによって、組織をゆさぶり、変革に向かって新たな風を巻き起すことが狙いなのだが、イノベーションにとっての強敵は、既成概念であり、当然のように固着した常識という枠組みである。アンラーニング(unlearning) とは、いったん学んだものを捨て去ること、旧い概念からの呪縛を解き放つことである。組織の活性化にとって、このアンラーニングという心理的過程が重要な意味をもつ
  • 私は企業の戦略的活性化のポイントを「一に採用、二に人事異動、三に教育、四に小集団活動、五にイベントにまとめられます。これに共通しているのは カオス の演出です」と述べた。これはのちに野中郁次郎氏の著書『企業進化論』のなかでも引用されたりしたが、当時リクルート社の組織人事担当としての自ら実践の論理をストレートに表現したもの
  • 活性化が必要なのは、変化する環境への適応能力を高める自己革新のためであった。それぞれの組織の成熟度に応じて変化を受け容れる許容範囲があり、一定のクリティカルポイントを超えた変動は単なる破壊であって自己修復を不可能にする。メンバーの抵抗や組織の混乱を承知の上で敢えてカオスを演出する人事異動の断行は、一方でビジョンと説得力を備えた強力なトップマネジメントのリーダーシップを前提としたものでなければならない。さらに言えば、一つの組織のなかでの変化という意味での人事異動は外部環境との間の 軋轢 を生む。この観点からも異動の頻度がある限界を超えると環境適応能力を弱める結果を招来することも、大事な留意点
  • こうしたイベントが活性化策として位置づけられる根拠は、一つには、日常性から脱却してある種のお祭りを組織のなかにプログラム化するという点にある。この過程で、日常業務を遂行する各職場から、当該イベントのためのプロジェクトに特定メンバーの参画を要請する過程で、人材の奪い合いや、スケジュールの調整などで必ず混乱が発生する。その混乱を止揚する上位のビジョンに全組織を引き込むことができるか否かがイベント活性化策として成功させるための鍵となる。新しい価値と秩序を創造し、新たな目標に向かって組織を、そして組織成員を統合するリーダーシップの有無が決め手となる

引用メモ