🖋

茨木のり子詩集 (岩波文庫)

感じたこと

  • aa
  • aa

内容

  • じぶんが本当に生きた日が あまりにすくなかったことに驚くだろう 指折り数えるほどしかない その日々の中の一つには 恋人との最初の一 の するどい閃光などもまじっているだろう 〈本当に生きた日〉は人によって たしかに違う ぎらりと光るダイヤのような日は 銃殺の朝であったり アトリエの夜であったり 果樹園のまひるであったり 未明のスクラムであったりするのだ
  • 女たちは本音を折りたたむ 扇を閉じるように 行きどころのない言葉は からだのなかで 跋 跳梁 うらはらなことのみ言い暮し 園の舞妓のように馬鹿づくことだけが愛される 老女になって 能力ある者だけが 折りたたんだ扇をようやくひらくことを許されるのだ
  • 落ちこぼれ 和菓子の名につけたいようなやさしさ
  • 倚りかからず もはや できあいの思想には 倚 りかかりたくない もはや できあいの宗教には倚りかかりたくない もはや できあいの学問には倚りかかりたくない もはや いかなる権威にも倚りかかりたくはない ながく生きて 心底学んだのはそれぐらい じぶんの耳目 じぶんの二本足のみで立っていて なに不都合のことやある 倚りかかるとすれば それは 椅子の背もたれのみ
  • 人間には 行方不明の時間が必要です なぜかはわからないけれど そんなふうに囁くものがあるのです
  • 詩人の仕事は溶けてしまうのだ 民族の血のなかに これを発見したのはだれ? などと問われもせず ひとびとの感受性そのものとなって 息づき 流れていく

引用メモ