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身銭を切れ――「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質

感じたこと

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内容

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引用メモ

干渉屋たちは実践感覚に欠けていて、歴史から何も学び取らないばかりか、純粋な推論すらまともにできない。ヤツらは、流行語まみれの巧妙であいまいな議論を用いて、純粋な推論を覆い隠してしまうのだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 270 干渉屋の欠陥は3つある。(1) 動ではなく静で物事を考える。(2) 高次元ではなく低次元で物事を考える。(3) 相互作用ではなく行為という観点で物事を考える。こうした愚の骨頂の教養人(もっというと似非教養人) が頭のなかで行う推論の欠陥については、本書全体を通じてより詳しく見ていく。
オレンジ色のハイライト | 位置: 337 官僚制度とは、人間が自分自身の行動の責任を取らなくてもいいようにするご都合主義の構造である。
オレンジ色のハイライト | 位置: 394 身銭を切らないかぎり、進化は起こりえない。 この最後のポイントは、明々白々だ。ところが、進化論は擁護するくせに、身銭を切ったりリスクを分担したりしたがらない学者はごまんといる。彼らは全知全能の創造主による〝設計〟という概念は否定するくせに、自分はまるで全知全能であるかのように何かを〝設計〟しようとする。
オレンジ色のハイライト | 位置: 414 身銭を切るという行為が、人間の傲慢さを抑制する。
オレンジ色のハイライト | 位置: 541 人間は物事のスケールに対して敏感な、局在的で現実的な動物だからだ。小さいと大きいは違う。具体的と抽象的は違う。感情的と論理的は違う。先ほど、マクロよりもミクロのほうがうまくいくと述べた。同じように、駐車場の係員に挨拶するときには、あまりにも抽象的な話題は避けるのが賢明だ。人間は目の前の具体的な環境に集中しなければならない。だから、シンプルで実践的な規則が必要だ。もっと 質 の悪いことに、一般的なものや抽象的なものには、プロローグその1で紹介した干渉屋のような、独りよがりのサイコパスたちがぞろぞろ集まってくる傾向がある。
オレンジ色のハイライト | 位置: 623 私は個人的に、予測の下手な金持ちと、予測の〝得意〟な貧乏人の両方を知っている。人生で重要なのは、結果の予測を〝的中〟させる頻度ではなく、的中させたときにどれだけ儲けるかだ。読みを間違えるのは、大きな犠牲がなければさして重要ではない。ある意味、学術研究における試行錯誤のメカニズムと似ている。
オレンジ色のハイライト | 位置: 684 科学主義とは、科学をプロセスや懐疑的な活動ではなく、何かを複雑化することとしてとらえる軽薄な考え方である。むやみやたらに数学を使うのは、科学ではなく科学主義だ。まともに動いている手を、もっと技術的なもの、たとえば人工義手に置き換えるほうが、より科学的だとは いえない。何兆という高次元のストレス要因にさらされながら、はるか昔から生き抜いてきた〝自然〟なプロセスを、〝査読済み〟の学術誌に発表された再現可能でもなければ統計的な精査にも耐えられない技術へと置き換えるのは、科学でもなければ正しい行動でもない。本書の執筆時点で、科学は製品(マーガリン、遺伝子組み換え商品) の押し売り商人たちに乗っ取られてしまった。そして、皮肉なことに、その懐疑的な活動とやらが、懐疑主義者たちの口を封じるために悪用されている。
オレンジ色のハイライト | 位置: 699 語る者は実践するべきであり、実践する者だけが語るべきである。
オレンジ色のハイライト | 位置: 725 その点、身銭を切れば物事はシンプルになる。それも、拍子抜けするくらいシンプルに。複雑な解決策を握っている人々には、シンプルな解決策を実行する動機がない。すでに見たとおり、官僚化したシステムは、複雑な解決策を売りこむ人々の干渉主義のせいで、どんどん複雑になる。彼らの受けてきた教育や立場がそうさせるからだ。 身銭を切らない連中の設計した物事は、どんどん複雑になる傾向がある(そして、最終的に崩壊する)。
オレンジ色のハイライト | 位置: 806 名誉とは、どれだけの大金を積まれても絶対に しない 類 の行動があるということだ。何らかの見返りのために魂を売ることはないし、500ドルのために体を売ることもない。いや、100万ドル、 10 億ドル、1兆ドルでも。
オレンジ色のハイライト | 位置: 824 倫理的に自立していない人間は、自分の倫理観に合う職業を見つける代わりに、(最小限の屁理屈をこねて) 自分の職業に倫理観を合わせようとする。
オレンジ色のハイライト | 位置: 855 アシスタントがいるだけで、本能的なふるい分けが利かなくなる。アシスタントがいなければ、いやがおうでも、自分が楽しいと思う物事しかしなくなるので、人生が少しずつそういう方向へと向かっていく(ただし、ここでいうアシスタントというのは、答案の採点、経理、草木の水やりなど、具体的な作業をしてもらうために雇う人のことではなくて、その人の活動を逐一監督する守護神的な存在のことだ)。
オレンジ色のハイライト | 位置: 872 起業家は社会の英雄だ。私たちのために失敗を肩代わりしてくれる。 しかし、資金調達や今日のベンチャー・キャピタルの仕組みのせいで、世の中には本当の意味で身銭を切っていない 似非 起業家があふれている。彼らの目的は、自分が設立に手を貸した企業を売却して現金化するか、株式市場で株式を発行して〝上場〟することだ。その企業の真の価値、製品、長期的な生き残りになんてまるで興味なし。それは純粋な金儲けの策略にすぎず、この種の連中は私たちのためにリスクを冒してくれる真の「起業家」とは程遠い(彼らにとっての起業は、4歳で売りさばくためだけに、高い値がつくかわいい子どもを生むのと同じことだ)。そういう似非起業家は、説得力のあるビジネス・プランを書く能力があるかどうかで簡単に見分けられる。
オレンジ色のハイライト | 位置: 982 本書は、『反脆弱性』の一部、「他者の脆さと引き換えに 反脆 さを手に入れるべからず」という題目を抜き出したものだ。一言でいえば、リスク負担の非対称性は不均衡へとつながり、システムを崩壊に導く可能性がある、ということだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,212 倫理のほうが常に法律よりも頑健である。時がたつにつれて、法律が倫理に近づいていくはずであり、その逆ではない。
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,219 が勤めていたころの投資銀行の仕事の大部分は、規制を逆手に取り、法の抜け穴を見つけることだった。そして、意外なことに、規制が多ければ多いほど、金儲けをするのはラクだった。
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,250 単純にいうと、ガラルの目的は、取引の当事者どうしが、ランダムな結果に対して対等な不確実性を持つようにすることだ。不確実性が当事者どうしで非対称的なのは、窃盗に等しい。もう少し強力な形でいえば、 商取引の当事者の一方だけが結果に関する不確実性を抱えていて、もう一方が抱えていないという状態はあってはならない。
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,384 スケールを無視した政治的な普遍主義の愚かさを一言でまとめているのが、ジェフ・グラハムとヴィンス・グラハムの兄弟による次の言葉だ。 私は、連邦レベルではリバタリアンだ。 州レベルでは共和党支持者だ。 地域レベルでは民主党支持者だ。 そして、家族や友人レベルでは社会主義者だ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,435 私たちは相場操縦を防ぐほうが社会にとってプラスになると考え、ジャーナリストが身銭を切るのを禁じてきた。しかし、相場操縦や利益相反のほうが、間違ったアドバイスをして罰を受けないことよりも、まだましであるというのが本書の主張だ。その最大の理由は、これから説明していくように、身銭を切らないジャーナリストたちは、自分の身を守るためにほかのジャーナリストの意見に同調し、単一文化や集団的な幻想を生み出す恐れがあるからだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,458 つまり、医師は次善の策である放射線治療を選ぶことにより、不確実性を自分から患者へと転嫁するわけだ。 医師は制度によって、リスクを自分から患者へ、現在から未来へ、近い将来から遠い将来へと転嫁するよう促されている。 診療所を訪れるときは、目の前の医師がどれだけ堂々と振る舞っていても、実際には脆い状況に置かれているという事実を忘れてはいけない。医師は患者ではないし、患者の家族でもない。患者の健康が悪化しようと、知ったこっちゃないのだ。医師の最大の目的は、当然ながら、キャリアに傷をつけかねない訴訟を回避することだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,504 何より、少数決原理はひとつのことを教えてくれる。ほんの一握りの不寛容で高潔な人々が、勇気という形の身銭を切るだけで、社会はうまく機能するのだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 1,803 社会における道徳的価値観は、民意の進化によって形成されるわけではないと予想できる。むしろ、不寛容であるというただ一点の理由だけで、ほかの人々に道徳を押しつけるもっとも不寛容な人によって形成されるのだ。同じことは公民権にも当てはまる。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,068 金持ちは、ホテルやレンタルと比べて効率が悪くても、カントリー・ハウスを所有したがる。なぜか? ふと使いたくなったときにいつでも使えるようにするためだ。トレーダーにはこんな金言がある。「船、飛行機、女の3つは、借りられるかぎり買うな」。それでも、多くの連中が船や飛行機を所有し、女性にのめりこんでしまう。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,216 あるとき、ネクタイを着けない理由を訊かれたことがある。当時は、5番街を裸で歩くに等しい行為だった。「ひとつは傲慢さ。ひとつは美学。ひとつは利便性」というのが私のお決まりの答えだった。儲けが出ているあいだは、トレーダーは上司に好きなだけたわごとを並べられた。上司はそいつがいなくなると困るし、自分の仕事を失うのが怖かったので、そのたわごとを飲みこむしかなかった。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,417 経験上、名誉博士号をせっせと集めるような連中はたいてい階級志向が強いから、私は大カトーの金言を心に留めている。大カトーは、「死後になぜ私の彫像があるのかと訊かれるくらいなら、なぜ私の彫像がひとつもないのかと訊かれるほうがいい」と述べた。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,543 だ。あなたが経験機械のなかに座り、脳に数本のケーブルをつなぐと、何かを〝経験〟することができる。まるである出来事が本当に起きているように感じるのだが、実際にはすべて仮想現実、つまり頭のなかの出来事だ。残念ながら、そういう経験は絶対に 生 の経験と同じ種類のものではありえない。そんなナンセンスを信じられるのは、リスクを冒したことのない職業哲学者だけだ。なぜか? しつこいようだが、人生とは犠牲とリスク・テイクだからだ。リスクを引き受けるという条件のもと、一定の犠牲を払わないかぎり、それを人生とは呼べない。取り返しが利くかどうかにかかわらず、実害をこうむるリスクを背負わない冒険は、冒険とは呼べない。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,569 傷跡は身銭を切っていることを示す一種のシグナルである。 また、 人々にはフロント・オフィスとバック・オフィスの人間を見分ける能力がある。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,581 アイビー・リーグ やらオックスフォードやらケンブリッジなどという有名無実な大学で教育を受け、中途半端な知識を蓄えたお節介屋たちは、私たちにいつも(1) 行動、(2) 食生活、(3) 話し方、(4) 考え方、そして挙げ句の果てには(5) 投票先まで指図してくる。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,642 知的バカは、歴史的に、スターリン主義、毛沢東主義、遺伝子組み換え生物、イラク、リビア、シリア、ロボトミー、都市計画、低炭水化物ダイエット、ジムのマシン、行動主義、トランス脂肪、フロイト主義、ポートフォリオ理論、線形回帰、異性化糖、ガウス分布至上主義、サラフィー主義、動学的確率的均衡モデル、宅地開発、マラソン、利己的遺伝子、選挙予測モデル、バーナード・マドフ(吹っ飛ぶ前)、p値について間違いを繰り返してきた。それなのに、現在の自分の見解は正しいと信じて疑わ ない。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,761 社会をより平等にするには、富裕層に身銭を切らせ、所得上位1パーセントから脱落するリスクを背負わせなければなら ない。 *4 より数学的にいえば、動的な平等では吸収壁のないマルコフ連鎖を仮定する。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,799 フランスの作家シモーヌ・ド・ボーヴォワールの自伝小説『レ・マンダラン』や、明朝の官吏たちにちなんで「マンダリン」と呼ばれている階級がある(中国の官話も「マンダリン」と呼ば れる)。そういう連中が実在することは前々から知っていたが、フランスの経済学者トマ・ピケティの著作への反応を見ていて、ヤツらの際立った(そして悪質な) 性質に気づいた。 訳注1 マンダリン(mandarin)には、「学界や文芸の世界で影響力を握る知ったかぶりの年配者」「エリート意識の強い特権的な知識人」といった侮辱的な意味合いがある。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,869 あらゆる共産主義運動と同じように、革命的な理論を真っ先に取り入れるのは、中産階級や事務職レベルの人々であることが多い。したがって、階級への妬みは、南アラバマのトラック運転手から始まるわけではない。むしろ、アイビー・リーグで教育を受け、特権意識を持ち、自分より〝頭の悪い〟人間がずっとお金を持っていることに怒っているニューヨークやワシントンDCの知的バカ(ポール・クルーグマンやジョセフ・スティグリッツなど) から始まるのだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,895 知識人が格差を過度に心配しているとすれば、それはその人自身が自分のことを階級という視点でとらえていて、ほかの人々も同じように思っていると考えているからだ。さらに、〝競争の激しい〟大学の議論は、まるで病気のように階級の話で占められている。実世界のほとんどの人は、階級になどたいしてこだわっていないの だが。
オレンジ色のハイライト | 位置: 2,966 公務員は、銀行業界などにとって有利な規則を作り、のちにJPモルガンへと天下れば、現在の給料と相場との差額の何倍ものお金を取り戻せる(規制当局者には、あとで自分の専門知識を高値で買ってもらえるよう、規則をできるだけ複雑にする動機がある)。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,006 時の経過は無秩序の増大と同じ意味を持つ。そして、時の破壊に対する抵抗、つまり私たちが大げさに「生存」と呼んでいる行為は、無秩序への対応能力といえる。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,009 確率の世界では、変動性と時は同じものだ。脆さという概念によって、「時だけがモノの運命を評価できる」という概念に厳密性が加わった。ここでいう モノ とは、思想、人々、知的生産物、自動車モデル、科学理論、書籍などのことだ。リンディにごまかしは利かない。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,017 なぜなら、時は身銭を切ることによって作用するからだ。長く生き延びてきたモノは、一定の頑健さを備えていることを事後的な形で示唆している。ただし、その間、害にさらされてきたという条件がつく。というのも、身銭を切り、現実にさらされることがなければ、先ほどから説明している脆弱性のメカニズムは成り立たないからだ。たとえ、あるモノが何の根拠もなく一定期間、一定規模で生き長らえたとしても、やがては崩壊し、大きな巻き添え被害をもたらす可能性もあるのだ。
青色のハイライト | 位置: 3,045 法は古いものを使うべし。だが、食べ物は新鮮なものを使うべし」
青色のハイライト | 位置: 3,067 昔、同僚の場立ちがこんな知恵を教えてくれた。「ここの連中に好かれたら、何かがうまくいっていない証拠だ」
青色のハイライト | 位置: 3,069 自由人とは、同僚の評価に大きく(または直接的に) 運命を委ねていない人間のことである。
青色のハイライト | 位置: 3,070 エッセイストの私を評価するのは、ほかの作家でも編集者でも書評家でもなく読者だ。読者? 確かにそうだが、早合点しないでほしい。読者といっても、今日の読者ではなくて、明日の読者、明後日の読者だ。つまり、私の正真正銘の唯一の審判は「時」であり、重要なのは読者数の安定性や堅牢性(要するに、 未来 の読者) なのだ。『ニューヨーク・タイムズ』の最新の書評本ばかりを読みあさるミーハーな読者には、私はまったく興味がない。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,077 ほかの人々の評価は、それが現在ではなく未来の人々の評価である場合にのみ意味を持つ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,148 リスクを冒して、物議を醸すような意見を述べる著名人は、 たわごと の押し売りである可能性が 低い。 *4 通常、私は著名人アレルギーなのだが、不思議とアレルギー症状の出ない人もいる。私はようやく両者の決定的な線引きを思いついた。それは、リスクを冒しているかどうか、名声を気にしているかどうか、だ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,169 カール・ポパーにとっての科学とは、一連の実証可能な主張ではなく、やがて観測によって否定されうる主張を行う活動である。つまり、科学は基本的に立証的ではなく反証的な性質のものだということだ。この反証のメカニズムは、完全にリンディ対応といえる。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,203 おばあちゃんや年配者のアドバイスは、9割方、正しいと考えていい。対して、心理学者や行動科学者が書いたものは、1割も正しくない。ひとつは科学主義や学術的な売春のせい。ひとつはこの世界が手強いせいだ。おばあちゃんや古典が学者と同じことを言っているなら話は別だが、それならわざわざ心理学者に登場していただくまでもないだろう。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,230 認知的不協和(酸っぱいぶどうに関するレオン・フェスティンガーの心理学理論。人は認知の矛盾を解消するために、「手の届かないところにあるぶどうは酸っぱいに違いない」などと正当化 する)。言うまでもなく、最初にイソップ寓話に登場し、のちにラ・フォンテーヌがアレンジした。しかし、ルーツはさらに古く、アッシリア人のニネヴェのアヒカルまでさかのぼるようだ。 損失回避(何かを得る喜びよりも失う痛みのほうが大きいという心理学理論)。リウィウスの『ローマ建国史』 30 巻 21 節に、「人間は善よりも悪を強く感じる」と ある。セネカのほぼすべての手紙に、何らかの損失回避の要素が見られる。 *6 Segnius homines bona quam mala sentiunt. 訳注4 イソップ寓話「酸っぱいぶどう」で、キツネは、どうしても届かない場所にあるぶどうを「どうせ酸っぱいに違いない」と言ってあきらめる。この寓話から、英語の酸っぱいぶどう(sour grape)には「負け惜しみ」という意味がある。 否定形のアドバイス(否定の道)。何が正しいかよりも何が間違っているかのほうが理解しやすい。黄金律よりも白銀律のほうが優れていることを思い出してほしい。「善は悪がないほどよいことでは ない」とエラスムスは述べ、のちにキケロが繰り返した。 身銭を切る(文字どおり)。イディッシュ語のことわざに、「他人の歯では噛めない」とある。1614年ごろ、スカリジェは『アラブのことわざ( Proverbiorum Arabicorum)』で、「痒いところは自分の爪で掻くのが何より」という格言を取り上げて いる。 反脆弱性。古代の格言が何十とある。ここでは、キケロのものだけをご紹介しよう。「魂が柔弱になると、蜂に刺されただけでも 痛い」。政治制度への応用については、マキャヴェッリ、ルソーも参照。 時間割引。「樹上の 10 羽は手中の1羽にしかず」(レヴァント地方のことわざ) 群衆の狂気。ニーチェに… エクスポートの制限に達したため、一部のハイライトが非表示になっているか、省略されています。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,282 人類は絶えず徒らに又無駄に齷齪し、空疎なる心労に生命を費しているが、明らかにその理由は所有するということには如何なる限度があるかを知らず、又真の快楽は如何なる程度まで増大し得るかの範囲に全く無智であるが為である」(ルクレーティウス『物の本質について』樋口勝彦訳、岩波書店、1961年、267ページより引用)
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,329 身銭を切ることによって直接ふるい分けられることのない活動やビジネスでは、専門用語を知っていて、専門家っぽく振る舞い、表面的な知識に精通していても、肝心の中味についてはまったくわかっていない人々が大多数を占める。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,364 話していることがすんなりと理解できるヤツは漏れなくほら吹きだということも学んだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,372 同じように、ビジネスはビジネス・プラン、科学は資金調達によって成り立つという幻想もはびこっている。これはまったく正しくない。ビジネス・プランは、カモを説得するのに好都合な物語にすぎない。ビジネス・プランが役立つのは、プロローグその2で話したとおり、起業ビジネスを営む会社が、企業をパッケージ化して売却することで資金の大半を得ているからだ。説得力のある物語がなければ、企業を売りこむのは難しい。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,443 複雑な解決策を見つけるよう教育を受け、その能力によって選抜され、報酬を受け取っている人々には、あえてシンプルな解決策を実行する動機がない。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,547 身銭を切ればうわべは重要でなくなり、身銭を切らないとどんどんでたらめが膨らんでいく
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,553 人は金持ちになると、身銭を切るという形の経験メカニズムを捨て去る。自分の選好を自分で操れなくなり、誰かによって形成された選好へと置き換え、生活を不必要に複雑化し、不幸を招いてしまう。そして、その形成された選好というのは、もちろん、金持ちに何かを売りつけようとする人々の選好だ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,580 そのとき、金持ちは自然な標的なのだと気づいた。セネカの悲劇『テュエステス』でテュエステスが叫ぶように、泥棒は無一文の家には入らない。そして、毒はふつうの 杯 よりも金杯に盛られている可能性が高い。「毒は黄金の酒杯で飲まれるものだ( Venenum in auro bibitur)」
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,876 また、約8世紀前に書かれたトマス・アクィナスの『神学大全』を読んでみてほしい。「問」に続いて「さらに」「異論」「対論」などが並び、論破しようとしている意見をまるで法文のような厳密さで述べ、その意見の欠陥を探し、解答を導き出している。タルムードとの類似点に気づいたなら、それは偶然ではない。どちらの手法も、古代ローマの法的論法に由来するようだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 3,974 実際、 esse quam videri という表現がある。翻訳するとすれば、「そう見えるではなくそうある」だ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 4,024 最後に、ひとつアドバイスを。ときどき、〝人類の役に立ちたい〟という若者が私のところへやってきて、「そのためにはどうすればいいでしょう?」と訊いてくることがある。彼らは「貧困を減らしたい」「世界を救いたい」といったマクロレベルの立派な夢を持っている。私のアドバイスはこうだ。 (1) 決して善をひけらかすな。 (2) 決してレントシーキングを行うな。 (3) 是が非でも ビジネスを始めよ。リスクを冒し、ビジネスを立ち上げろ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 4,035 勇気(リスク・テイク) は最高の善だ。世の中には起業家が必要なのだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 4,047 現場の人々、実際に身銭を切っている人々は、地政学や壮大な抽象原理になんてさほど興味はない。彼らにとって大切なのは、食卓にパンがあること、冷蔵庫にビール(一部の人々にとっては、ヨーグルト・ドリンクのようなノンアルコールの発酵飲料) があること、家族で屋外のピクニックに出かけたときに青空が広がっていること、そして他人と接していて恥をかかされないことだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 4,607 起こることのすべてが、理由があって起こるわけではない。だが、生き残るものはすべて、理由があって生き残る。 要するに、合理性とはリスク管理なのだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 4,791 勇気とは、自分自身より上の層の生存のため、自分自身の幸福を犠牲にすることである。 利己的な勇気は勇気にあらず。無分別なギャンブラーが取る行動は勇気などではない。特に、他人の金を危険にさらしている場合や、養う家族がいる場合にはなおさらそうだ。
オレンジ色のハイライト | 位置: 4,880 体力なくして筋肉なし、 信頼なくして友情なし、 応報なくして意見なし、 美学なくして変革なし、 価値観なくして年功なし、 努力なくして人生なし、 渇きなくして潤いなし、 栄養なくして食事なし、 犠牲なくして愛情なし、 公平なくして権力なし、 厳密なくして事実なし、 論理なくして統計なし、 証明なくして数学なし、 経験なくして教育なし、 真心なくして礼儀なし、 体現なくして価値観なし、 博学なくして学位なし、 忍耐なくして軍政なし、 洗練なくして進歩なし、
オレンジ色のハイライト | 位置: 4,886 投資なくして友情なし、 危険なくして美徳なし、 エルゴード性なくして確率なし、 リスクなくして蓄財なし、 深みなくして複雑化なし、 中味なくして雄弁なし、 非対称性なくして決断なし、 懐疑なくして科学なし、 寛容なくして宗教なし、 そして、何より、 身銭を切らずして 得るものなし。