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マチネの終わりに

感じたこと

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内容

  • 「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか」
  • 「音楽は、静寂の美に対し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことのなかにある。」 少年時代の彼が、初めて、音楽を概念的な言葉とともに理解した芥川也寸志の《音楽の基礎》。
  • 『──生きることと引き替えに、現代人は、際限もないうるささに耐えてる。音ばかりじゃない。映像も、匂いも、味も、ひょっとすると、ぬくもりのようなものでさえも。……何もかもが、我先にと五感に殺到してきては、その存在をめいっぱいがなり立てて主張している。……社会はそれでも飽き足らずに、個人の時間感覚を破裂させてでも、更にもっとと詰め込んでくる。 堪ったもんじゃない。……人間の疲労。これは、歴史的な、決定的な変化なんじゃないか? 人類は今後、未来永劫、 疲れた存在 であり続ける。疲労が、人間を他の動物から区別する特徴になる? 誰もが、機械だの、コンピューターだののテンポに巻き込まれて、五感を喧噪に直接揉みしだかれながら、毎日をフーフー言って生きている。痛ましいほど必死に。そうしてほとんど、死によってしか 齎されない完全な疲労。
  • 「父からは、《ヴェニスに死す》症候群だと言われました。父の造語で、その定義は、『中高年になって突然、現実社会への 適応 に嫌気が差して、本来の自分へと立ち返るべく、破滅的な行動に出ること』だそうだ。
  • 未来がない、と彼は感じていた。これまでどんな時期の演奏にもあったはずの、あの現下の完成を待ちきれずに、もう芽吹こうとしている次なる音楽の 瑞々しい気配がなかった。いやむしろ、既に顔を覗かせつつある幾つかの芽に、彼は冷めた幻滅を感じている
  • 孤独というのは、つまりは、この世界への影響力の欠如の意識だった。自分の存在が、他者に対して、まったく影響を持ち得ないということ。持ち得なかったと知ること。──同時代に対する水平的な影響力だけでなく、次の時代への時間的な、垂直的な影響力。それが、他者の存在のどこを探ってみても、見出せないということ。 俺だけは、その歳になっても、そんな幻滅を味わうはずはないと、蒔野はどこかで楽観していた
  • その寸前で、彼女はそれを回避し、結局、世界そのものを変えたのだった。この世界は、ジャリーラという名の一人のイラク人女性が、存在しない世界ではなく、存在する世界として持続することとなったのだから。──そう考えて、蒔野は、自分が今、ここにいるという意識の根幹を強く揺さぶられた。そして、彼女のために駆けつけ、尽力し、こうして寄り添っている洋子を尊敬した。洋子もまた、イラクで、その世界からの登録抹消の危機を経験している

引用メモ